キャロライン田中の読書日記

読書やらの日記です。たまに音楽評も書きます。

【読書】獄中19年:すでに役目を終えた本であるが、韓国独裁政権時代を切り取った本という点では貴重。ただ、それしか価値がない。

【総評】1994年時点では説得力があったんでしょうね。しかし、かれが北朝鮮工作員で、北の同胞の状況を知っていたと推測される今では、まったく説得力なし。

獄中19年―韓国政治犯のたたかい (岩波新書)

獄中19年―韓国政治犯のたたかい (岩波新書)

 

 

ソ連崩壊の少し後に出されているが、70~80年の韓国を切り取った本としては貴重。左翼色ぷんぷんの文体は、まあやむをえないでしょう。岩波だし。

 

残虐だし、お気の毒ですね、とは思う。

ただし、かれはソウルに入る前、北朝鮮にわたって工作員教育を受けていたことがばれた今となっては、あまり説得力を感じない。だってもう北の同胞は飢えていて粛清バリバリの時代だもの。

また、拉致問題も起こっている時代なんだよね。

 

両親のことをふれることにより、日本を貶めているが、明らかに徴用ではない時代に日本に来ているし、史実として日本が略奪して韓国が貧しくなったというのは嘘なので、まあこの時代を生きていた人には必要な「物語」だったんでしょうね。まったく支持できないけど。

 

ただ、朴正煕のことをぼろっかすに描いているので、あまり思い入れがないせいか(もちろん北朝鮮には思い入れがある)韓国のこの時代をよく映し出している。その点では、非常に刺激を受けた。

今となっては読まなくてもいいと思う。時間の無駄だし、左翼文体は基本的に読みにくい。

ただ、「進歩派文化人」と言われた人はイデオロギーと真実を分けて発言することを考えたほうがいいとおもったね。

 

朝日じゃないけど。

 

【読書】山月記:高校生の時とは別な読み方を…

 【総評】道徳的読み方に違和感をもった高校時代とは違う読み方をした。異論は認める。

山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)

山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)

 

「驕ってはいけない」という感想が、学生的には正解なのでないか。Amazonにもそんなブックレビューが多い。

 

ちがうのではないかと。

 

彼は、才能のある人間であり、それを驕るのはまあ、やむを得ない。気の毒なのは、天才ではないことではないのではないか。

さらに悲劇なのは、自分が天才でないことが、なまじっか才能があるがためにそれが残酷なまでに分かってしまうことだと考える。

世間知があれば適当なところで折り合いをつけることが可能であるとは思うのだが、自分の才能は常人より数段上(ただし、天才ではない)ため、ひっこみがつかなくなってしまうという現実。

才能がないほうが世間とうまくやっていけるという不条理。

 

努力で一流になることは可能だと思うのだが、天才にはなれない。ただ李徴はそれを求めていたのでは。その際、才能の限界は残酷までに李徴を蝕むことは想像に難くない。

 

自分より劣るものが、その才を磨いたために…というくだりがあるが、李徴がそれで満足できるはずもないのではないか。後半は、それの自己弁護(ここにも、彼の欺瞞がある)が続く。

 

決して後味のよい終わり方ではない。しかし、社会人となったら、もう一度今の自分の価値観で読んでみるべきだと思う。私の読み方はおそらくひねくれているかもしれないが、様々な読み方ができると思うし、それに耐えられる名作だと思う。

【読書】ヘイト・スピーチとは何か:法曹の中にいる人間が出すべきではない駄本。芦部や四人組を100回読み返せ。

 【総評】2013年にもなって、なぜ岩波からこのレベルの本が出るのか出版社の良識を疑う本。ほかの本を読め。

ヘイト・スピーチとは何か (岩波新書)

ヘイト・スピーチとは何か (岩波新書)

 

amazonのコメントで著者の思想が書かれているので、まあそういう本かな、ということを抜きにしても(反自民、親民主)、良識を疑う。以下では思想抜きでひどいところを記載。

①彼女がいうヘイトスピーチ規制はもろ内容規制にあたるが、それが日本国憲法上できるだけ避けるべきである規制なことが一文字も書かれていない。芦部シェンシェーも四人組も長谷部もほかも、メジャーどころで賛成の憲法学者いないと思うけど。賛成ならその論拠を法律家らしく書けよ。

②マイノリティーってだれが規定するのかな?マイノリティー同士のヘイトは?どこまでヘイトなのかな?奄美は?

あと、この本の中には極端な例しか書いていないけど、たとえば「日本は韓国を併合し、インフラを整備しました」はどうなのかな?マイノリティーが不快に思ったらヘイトなのかな?それを国家権力である立法や裁判所がジャッジするんならば、定義は厳格じゃないと恣意的に使われるんじゃないかな?そこの配慮が全くない。

ヘイトスピーチ規制がある国として、イギリス、ドイツ、カナダ、オーストラリアが挙げられているけど、少なくとも前の3つは移民政策失敗しているよね。それに対する社会問題もあるよね。ドイツはメルケルが失敗って明言してるよね。多民族共生って幻想なんじゃないの?という視点がまったくない。まあ思想的にそう書かざるを得ないと思うけど。

④フランスの国民戦線のことが否定的に書かれているけど、マリーヌは少なくとも「ヘイトスピーチ禁止」って言っているはずなんだけど。書かないのはわざとかな?

⑤アメリカが条約を留保しているのは、違憲だから…民主主義の要請…(略)めんどい。

⑥「中国にはヘイトスピーチを規制する法律が…」スピーチを規制する前に、チベットウイグルを何とかしろよ。無視ですかそうですか。わかりません!><

 

いろいろ突っ込みどころがあるのは、思想的に隠したいからなのかな?それならば悪質だし、そうでなければこういう問題に手を出すべき知的レベルじゃないんじゃないかな。

司法試験合格に求められる資質と、法・政治的に思想できる資質は違うものなんだな、ということが学べたことはよかった。ヘイトスピーチについてはほかの本なりを読んだほうがいいと思う。岩波は2013年にもなってこのレベルを新書で出したことを猛省すること(怒)。